「んっ ふぅ……」
ティッシュを丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
時刻は深夜2時。画面の中で悶絶してる女優の動画を閉じ、スマホをベッドに放り投げた。
またこれだ。
襲ってきたのは、いつもの強烈な虚微感。
いわゆる「賢者タイム」というやつ。
ここ最近、俺の性生活は完全に「作業ゲー」と化していた。ムラムラを抑える為、出せばそれなりにスッキリはするけれど、そこに感動もなければ、脳汁がドバドバ出るような興奮もない。
ただ溜まった恥ずかしい液を定期的に射出する為の冷めきった義務のルーティン。
「俺の絶頂のピークって、もうこの程度で打ち止めなのかな……」
そんな諦め混じりのため息をつきながら、なんとなくスマホを開いてネットの海を彷徨っていた時だった。
画面の向こうから、妙に生々しい文字列が俺の目に飛び込んできた。
メスイキ。それは、男性の通常の射精とは『次元が違う』絶頂。数倍どころか、脳の限界を越える絶頂感が押し寄せる。
……数倍!?
画面を見つめたまま、指がピタリと止まった。
男にとって、女性の中でフィニッシュを迎えることこそが人生最高のゴールであり、快感の頂点のはずだ。
それ以上なんてあるわけがない。どうせ大袈裟な都市伝説だろう。
そう思って、一度は鼻で笑ってブラウザを閉じた。
実際、翌朝になれば普通に目が覚めて、いつも通りに満員電車に揺られた。
会社に着けば真面目にルーティンをこなし、目の前の仕事に全力で集中した。
日中の俺の脳内に、あの怪しいワードが入り込む隙間なんて1ミリもなかった。
仕事中の俺は、完璧に普通の会社員だったのだ。
夜は夢中でベッドの上で繰り広げる「未知の絶頂」大リサーチ
だけど、夜は違った。
残業を終えてクタクタになって帰宅し、お風呂に入って一人の空間になった瞬間。
昼間の緊張が解けた反動のように、あのスマホで見た「数倍」という文字が、猛烈な勢いで脳内に蘇ってきた。
ベッドにダイブし、吸い寄せられるようにスマホを握りしめる。
ここから、俺の深夜の大リサーチが始まった。
「数倍ってマジかよ?そもそも、どこでそんなことが起きるわけ?」
画面を高速でスクロールする。
たどり着いた答えは、お尻の奥にあるという【謎のスイッチ(前立腺)】だった。
ネットの体験談やレビューを貪るように読み進めるうちに、俺の胸の中に眠っていた「ある感情」が激しく揺さぶられた。
それは、女性に対する嫉妬。
ぶっちゃけ、男の射精って一瞬で終わる。
ドビュピュッッツと全部を出し切って、あとは急激に冷めるだけ。
でも、ネットの住人たちは口を揃えてこれは女性の絶頂と同じシステムだと語っている。 そんなはずがあるわけ無い。
女性のポルチオ中イキ絶頂が、正直凄くうらやましい。
あの、動画などで見られる悶絶痙攣絶頂!!
男に生まれた以上、一生味わうことのできない「幻の感覚」だと思って諦めていた。
それが、まさか俺の、このお尻の数センチ奥に隠されているなんて。
「どうすればいい。自分の指を入れるってこと?」
「てか、何が必要なんだ?特殊な道具とか買わなきゃダメなのか?」
検索の手が止まらない。絶頂したい欲求が完全に暴走を始めている。
「楽にできるの?初心者が簡単にイケるもんなの?」
「いや待て、そもそも痛いんじゃないの?絶対痛いよね?」
画面の眩しい光に照らされながら、疑問が次から次へと溢れ出てくる。
通常の射精が一瞬の「点」の爆発なら、お尻のスイッチによる快感は途切れることのない絶頂の連続のはず。
自分がこれまで生きてきて、一度も体験したことのない凄まじい感覚が、今この瞬間も自分の中に眠っている。
そう思った瞬間、部屋のエアコンの風とは違う、得体の知れないゾクゾクした感覚が背筋を駆け抜けた。
男のプライドと好奇心のせめぎ合い、そして震える指で「ポチる」決意の夜
気になって、気になって、もうどうしようもない。
この事実を知ってしまった以上、もう昨日の自分には戻れなかった。
「お尻を開発するなんて、男としてどうなんだ?」
「そんな領域に踏み込んだら、人として大切な何かを失うんじゃないか?」
そんな古い偏見や羞恥心が、頭の中で必死にブレーキをかけようとする。
だけど、「あのうらやましすぎる『中イキの感覚』を自分も味わえるかもしれないのに、知らずにこのまま死ぬなんて、男として大損してないか?」
圧倒的な好奇心の前に、そのブレーキはあっさりと粉砕された。
汚いかも、痛いかも、という恐怖すら、未知の世界への切符に見えてくるから不思議だ。
気づけば、Amazonの画面を開いていた。
検索窓にローションと指が汚れないようにコンドームと打ち込む。
並び替える条件は、レビュー評価の高い順。
画面に並ぶグッズを見つめながら、心臓がドクドクと不気味なほど大きな音を立て始める。
もし家族や配達員に中身がバレたら社会的に恥ずい、というハラハラ感に耐えながら、品名が「PC周辺機器」や「書籍」として発送されることを念入りに確認した。
購入カートに入れたり出したりを3回ほど繰り返した。
部屋の時計が、チクタクと真夜中の静寂を刻んでいる。
「よし、今夜、俺は新しい世界の扉を開ける準備をする」
覚悟を決めて、震える指で注文確定ボタンをタップした。
画面に表示された「ご注文ありがとうございました」の文字。
もう引き返せない一線を越えてしまった。
数日後、あの段ボールが届いた時、俺の体はどうなってしまうのだろうか。
未開の絶頂へのカウントダウンが、静かに始まった。
➔ 次のお話を読む:【第2話】【メスイキ絶頂を夢見て謎のスイッチを探した話】
📖 このエッセイは【全7話】の連載ストーリーです
各話のタイトルから、それぞれのお話へジャンプできます。
・【第1話】 【射精に飽きた】私が、お尻の中にある謎のスイッチに出会うまで。(※ 今読んでいる記事です)
・【第2話】 【メスイキ絶頂を夢見て謎のスイッチを探した話】
・【第3話】 【メスイキできない】お尻のスイッチを刺激しても違和感・何も感じない男の試行錯誤
・【第4話】 【メスイキのコツ】を掴んだ雑魚マンコの出会い
・【第5話】 メスイキの感覚までもう一歩、理想と現実

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